オスカー・ギリア 再びの来福に寄せて 中野義久:フォレストヒルミュージックアカデミーギター科主任講師
2002年に久々の来日を果たし、福岡でもリサイタルを行って僕たちに大きな感動を与えてくれたギターの巨匠、オスカー・ギリア氏が 再びここ福岡でリサイタルを開きます。02年はついこの間のような気がしますし、もう三年もたったのかという思いがします。その時の演奏を聴かれた方は是非またあの感動を思い起こして下さい。そして、来られなかった方には僕なりの感動をお伝えしたいと思います。

 まずその人となりは、体の大きな人ですが作り出す音楽も大きい!スケールがデカくて深いのです。また一つ一つの曲が、楽譜を今初めて見て音にしたときのような新鮮さと驚きを保ちつつも緻密に練り上げられて表現されているようで、これぞベテランの『巨匠の技!』と感動しました。特にオアナ作曲「ティエント」は鋭く現代(前衛)的な曲ながら、溢れんばかりの豊かな響きと歌に満ちていて、しばし至福の時を味わいました。またアンコールで演奏されたテデスコ作曲「タランテラ」では、お年(失礼)を感じさせない若々しくエネルギッシュな演奏で驚かされました。三十数年前のLPレコードの時代、同じセゴビア門下であるパークニング、ディアスの演奏とともに収められた二枚組レコードで聴いた初々しい「ゴヤの美女」とこの日の「タランテラ」に思いを馳せると、こんにちのギリア氏の円熟に感慨深いものがあります。

 今回のプログラム中のポンセ作曲「スペインのフォリアの主題による変奏とフーガ」について。ポンセとセゴビアは多くの方が御存知の通り肝胆相照らす仲であり、ギター音楽 史上最も重要なレパートリーを生み出すことになったコンビ(セゴビアにはこの曲のSP時代の録音がありますね)、そしてギリア氏は若き日にセゴビアの薫陶を受け(「アリアと変奏」でレッスンを受けているビデオがありました)、セゴビア自身に認められた数少ない後継者の一人です。そのギリア氏の紡ぎ出す音色の中にセゴビアやポンセの面影を見出し、歴史(伝統)の流れの中に身(耳)を委ねてみてはいかが」でしょうか。

 さて、ギリア氏は名演奏家ですが同時に名教育者でもあります。門下からは皆さんよく御存知の福田進一さん、大萩康司君をはじめE.フィスク、S.イズビン、S.グロンドーナなど世界各地で活躍するギタリストを輩出しています。02年の来日では静岡県でマスタークラスが行われました(当ミュージックアカデミーの講師である池田慎司さんが受講者の中から優秀な生徒3人に選ばれた、ということも記憶に新しいと思います)。今回は山形県庄内でマスタークラスを行なって国内の若者達の指導をすることになっています。(今年の「庄内ギターフェスティバル」でのマスタークラスには、フォレストヒルミュージックアカデミーで私の生徒として頑張っている、三良裕亮君と上野芽実さんが予選に合格し、マスタークラスに参加できるできる権利を獲得しました。二人とも、精一杯勉強してきてください!)各地でのギリア氏のマスタークラスの様子は以前の「現代ギター」誌にいろんな方がレポートを寄せていますので、興味のある方はバックナンバーをご覧下さい。

 実は・・・前回来福の折り、お忍びで僕らフォレストヒルミュージックアカデミー講師陣にレッスンをつけて下さいました(日本国 内でもユニークな活動をしている当アカデミーならではですね)。僕はクレンジャンス作曲「カプリス形式のアラベスク」で受講しました。印象は・・・実はまだ冷静に語れるほど気持ちの整理がついてないんです。が、今思い出しても心がジーンとして目頭が熱くなってきます。まったく分析にも紹介にもなっていませんが今のところの正直な感想です。何かとてつもない力で心をグワシッとつかまれ揺さぶられた、そんな感じでした。ギリア先生(ここから敬称)は特に具体的・分析的なことを言われるわけではなくて「カゼノヨウニ」とか「ツヨク」などと言いながら指揮をされて僕は死に物狂いでそれを追っかけ、気付いてみると「自分の中にまだこんなエネルギーがあったのか!」と感動し、いつのまにかレッスンが終わっていました。噂で厳しいレッスンと聞いていたので、どんな事になるのか始まる前は内心ハラハラしていましたが、ご自分が思っているように僕が弾けないと何度も弾き直しをさせられたり(当然ですね)と妥協を許してくれない(当たり前ですね)厳しさは感じましたが、それよりも何か強力な磁力のようなもので僕の中にあって眠っていた(?)エネルギーを引きずり出して頂いたように感じました。でもフォレストヒル・ニュースの大萩君の記事などを読むと受講生によっていろんな方法を採られるようで、僕の場合はこんな方法と瞬時に判断されたんだと思います(今思えば)。それだけたくさんの引き出しをお持ちのようです。  大きな体の中に細やかな心使いと芸術上の引き出しを持ち、緻密かつスケールの大きなギリア氏の音楽にぜひ接してみて下さい。

藤井眞吾:フォレストヒルミュージックアカデミーギター科特別講師
・・・この演奏会がギター・ファンにとっては、この夏、あるいは今年、最大の注目であることは間違いありません。前回来日時(2002年)にも「マエストロ」健在ぶりを私達に示した、イタリアの巨匠・オスカー・ギリア氏は得意とするバッハやグラナドス等のレパートリーで私達を魅了しましたが、中でも私にとってもっとも印象的だったのは、愛弟子・福田進一さんとの二重奏(F.ソル)でした。ファンタシーでのスケールの大きな音楽は勿論のこと、ワルツでは軽やかな遊び心と歌心に溢れ、またこの二人が鮮やかなアンサンブルを聴かせてくれたことも感動的でした。あんなにも個性の強烈な福田君が、さすがにマエストロ の前では従順なアンサンブルを披露していることも、彼の普段を知る者としては、なかなかに楽しいものでしたが、矢張り「師弟のきずな」と言うべきなのでしょうか。

今回のソロプログラムでは、何と言ってもポンセの大作、そして20世紀を代表するギターの傑作「スペインのフォリアによる変奏曲とフーガ」が含まれているということが、最大の注目です。技巧的な面での多様性が要求され、また20の変奏との音楽的変化、コントラスト、そして最後のフーガでは演奏家としてのフルパワーが要求されます。もうひとつの独奏曲はヴィラ・ロボスの前奏曲3曲。一体何 番が選ばれるのかは当日までわからないようですが、以前から得意としてきたこのレパートリーを久し振りに聞けることも大きな楽しみです。

今回も私がとても楽しみにしているのは福田進一さんとの二重奏です。最も信頼する愛弟子をパートナーに得て、マエストロはまさに延び延びと音楽を歌い上げていた、そんな印象が前回は強烈でしたから、今回のバッハのトリオソナタ、J.ウィリアムス編のブラームス、そしてソルと、まさに最高のギター音楽を聴かせてくれるに違いありません。